エディターというのは日々文字を書くのが仕事だ。今も締め切り間近の原稿が煮詰まって、このコラムを書くことで気を逸らしている。文字数だけ見れば、物書きを生業としているといってもいい。そんな思い上がりが、瞬時に消し去られる出来事に見舞われた。郵便の送り状を書く際、渋谷区の有名な高級住宅街の地名を書こうとするも、どうしても漢字が出てこないのだ。氵(さんずい) まではいいものの、旁 (つくり) を思い出そうにも、VHSの映像ぐらいぼんやりしたイメージしか浮かばない。明らかにデジタルデバイス依存による弊害。これは早急に、手書きの癖を取り戻す必要がある。ということで、形から入ろうと思う。
向かったのは、銀座の「伊東屋」本店。海外からの観光客ですし詰めになった店内で、5本ほど試し書きし、選んだのは1883年創業のドイツの名門筆記用具メーカー Kaweco (カヴェコ) のシグネチャー「Kaweco Sport」。1972年のミュンヘン・オリンピックにおいて公式ペンとしても認定されたもので、手馴染みが良く、なおかつ小さなポーチの収まりも良い11cmという長さも魅力的な一本。フォレストグリーンとゴールドの対比も美しく、持っているだけでエレガントな手もとを演出してくれる。今のところリース伝票と郵便の受け取りサインでしか出番がないので、もっと複雑な漢字を書く機会が来ることを心待ちにしている。魑魅魍魎とか。𰻞𰻞麺とか。