
いくつかあるビジネス用のバッグでもっとも愛着があるのは同世代のカバン作家・カガリユウスケさんにオーダーしたもの。新型コロナ禍の東京を描いた『東京ルポルタージュ』という本のなかで、カガリさんの活動を取り上げている。彼がブランドとして勝負をかけた個展を開いた時も感染症は流行していたが、快く取材に応じてもらった。その席で実はこんなカバンが欲しくて……という話をしたことを覚えている。
大事だったのはデザインと実用性の両立だ。パソコンを持ち運べる仕切りがあり、分厚いノートや本、取材に必要な機材等々が入り、しかし実用性だけに振り切ったような野暮ったさを感じさせず、いろいろなシーンで使えるものというリクエストをして、細かく調整してもらった。カガリ作品らしく厚いレザーの表面に建築用のパテでコーディングされている。使い込んでいくと、まるで壁のように経年変化をする。カバンの変化に自分の仕事が刻まれていくのが嬉しい。
バッグの中で欠かせないのはペンである。パソコンを開いて、その場で打ち込んでいくというスタイルのライターも多くなっているが、私の取材はノートにメモが基本だ。
服装や表情、口調の変化まで記録するのにこれ以上便利なものはない。ブルーを基調とするウォーターマンのペンは二代目で、端正なデザインが気に入っている。初代は地方に出かけた取材で、どこかにうっかり忘れてしまったという苦すぎる思い出が……。今度こそ忘れないようにしなければ、とペンケースの中身をその都度、確認するのが癖になっている。