
本をギフトにするのは、なかなか難しい。感想が聞けないと少し寂しい気持ちにもなるし、何より趣味が違えば、贈られた方にとっては重荷になりはしないか?
というわけで、この秋の夜長に静かにページを開いてみてほしい古典と新刊の二冊について呟いてみたい。
古典の一冊目は、ミハイル・ブルガーコフ『巨匠とマルガリータ』(水野忠夫訳)。ソ連下で長く禁書とされながら密かに読み継がれ、やがて舞台化もされたこの小説は、今読んでも、いや今だからこそ鮮烈で、私はそのハチャメチャ感にすっかり取り憑かれている。シャンパンのプール、だらしなく酔っ払う巨大な猫、箒に乗ってロシアの夜空を飛び回るマルガリータ。宮崎駿もきっとインスパイアされたに違いないアニメチックな写実と、その奇想に満ちた物語は、同時に体制という現実をクリティカルに照射している。
二冊目は話題の新刊、王谷晶『ババヤガの夜』(サム・ベット訳)。配達されたその日に一気に読了してしまった。舞台はヤクザの世界だが、そこには家父長制が強く重なっている。ヤクザファミリーに生まれ落ちた一人の女性が、いかにしてそのシステムの呪縛から逃れ、自分自身の生と身体を取り戻すか。劇画的でスピード感ある筋立ての背後に、男性支配の制度への抵抗と反撃が織り込まれている。娯楽性と批評性とが鮮やかに交差する一冊である。