
ジョルジオ・アルマーニの訃報を受け、何年かぶりにこの本を手にした。序文を執筆した建築家の安藤忠雄氏の言葉に胸を打たれる。2001年にオープンした文化複合施設「アルマーニ/テアトロ」の設計を手がけた同氏は、“ミスター・アルマーニ”の「建築に〈eternity〉を期待する」という言葉に共鳴したと語っている。彼の生き様、そして50年の歳月をかけて作り上げたスタイルを表現するのに、これ以上に誂え向きの単語があるだろうか。
本作を通して、ファッションブランドであるアルマーニという一大帝国を築き上げた背景に、創業者の天賦の才があったことは言うまでもないが、それと同じように後天的な素養——例えば時代の空気感を誰よりも鋭敏にとらえる嗅覚、思いがけず舞い込んできたチャンスを掴んで離さない握力、そしてなにより自身が思い描く完璧なスタイルの実現のため、愚直なまでにストイックに、来る日も来る日もクリエイションに向き合う忍耐力といったものが大きく作用していることをまざまざと突きつけられる。本来読まずとも想像で分かるようなことではあるが、幸運にも同じ時代を生きることを許された偉人の人生を追憶しながら、緩み切った背筋を俄かに伸ばす。この本はジョルジオ・アルマーニという稀代の”マエストロ”の一代記であると同時に、表現活動に携わる全ての人間にとってこれ以上ないビジネス書であり、ファッションを愛する全ての人にとっての教典だといえる。
この本を誰に贈ろうかと考えたが、そういえばこれは数年前にリサーチ目的で知人から借りていたものだということを思い出した。早急に返却して、まずは一冊自分のために購入しようと思う。