12/ 2025

  • 鈴木涼美 作家
  • 小泉智貴 ドレスデザイナー/美術作家
  • 向井山朋子 ピアニスト/美術家/ディレクター
  • 中村友美 金工家
  • アヤナ ビューティライター
  • 臼田あさ美 俳優
  • 小池陽子 ヴィーガンフードクリエーター
  • 藤井夏恋 アーティスト/モデル
  • 鈴木親 写真家
  • 刈谷円香 ダンサー/モデル
  • 小川知子 ライター
  • 松浦りょう 俳優
  • 近藤春菜 芸人
  • 甲田益也子 アーティスト/モデル
  • 落合宏理 ファッションデザイナー
  • 太田莉菜 モデル/俳優
  • 石戸諭 ノンフィクションライター
  • 山本マナ スタイリスト
  • 二村毅 スタイリスト
  • 源馬大輔 ディレクター
  • 松岡茉優 俳優
  • 山下有佳子 アートプロデューサー
  • 岡部駿佑 エディター

    ディオールをたずねて三千里

    ジュエリーが好きだ。どれくらい好きかというと、今月のお題が「心を煌めかせるアクセサリー」と言われた際、「それってファインジュエリーでしょうか?コスチュームジュエリーも含みますか?時計とかの方が良いでしょうか……」と、前のめりで担当編集を問いただすくらいには、好きだ。我ながら、うっとうしい。
    私物のコレクションから、今回はどの子を自慢してやろうかとジュエリーボックスをひっくり返すと、懐かしいブレスレットが出てきた。ジップのモチーフを模った、ディオールのブレスレット。小学生だったか、中学生の頃お年玉を貯めて購入したものだ。

    見渡せば田んぼしかない景色から逃避行するように、ファッション誌を読み漁っていた当時。ジョン・ガリアーノとの出合いは衝撃的なものだった。強烈なストロボに照らされたランウェイに登場する、黄金に輝く巨大なエジプト風のドレス。中世ヨーロッパの王侯貴族のようなドレスを纏い、顔を白塗りしたモデル。あるときはモデルたちがラッパーさながらにバギージーンズを履き、ラジカセに見立てた巨大なバッグを肩に担ぎながら横柄に歩くシーズンもあった。そのセンセーショナルなクリエイションに、どれほど影響を受けたことだろう。この世界のことを、もっと知りたい。あわよくば、ほんの些細なものでもいいから、この世界のものを自分の一部にしたい。さあ、岡部少年によるディオール探訪譚の幕開けだ。

    作戦は正月、母方の実家である神戸に帰省中に決行された。舞台は元町にある大丸神戸店。自由行動として両親、姉妹から離れられる約1時間。運動会でも披露したことがないくらいのクラウチングスタートで、格子の装飾に彩られた真っ白な建物を目がけて走る。ビシッとスーツを着たドアマンの訝しむ顔をよそに重厚なドアをくぐる。夢にまで見たディオールの最新コレクションが並ぶディスプレイを眺めながら、まるではじめて遊園地を訪れた子供……実際に子供なわけではあるが、それくらい目を輝かせてしばし悦に浸る。タイムリミットが迫る中、ふと目に留まったのが、ガラスケースの中で佇むファスナーの形をした小さなブレスレット。なにこれ!かわいい!欲しい!恐る恐る値段を聞く。よし、予算内!!
    「本当に買うの?この男の子が?」と眉を顰める (註:当時そう錯覚しただけで、多分普通に丁寧に対応してくれたと思いますよー) 販売員に、なけなしのお年玉を手渡し、無事購入。紙袋は折りたたみ、細長い箱と一緒にコートの内ポケットにを隠しながら、家族と合流。ミッション、コンプリート!!!

    と、まあ、たかがブレスレットひとつで、ここまで思い出に浸れるのは、ジュエリーならではの魅力だろう。ちなみにこのブレスレットは、今でもたまに時計に合わせて着けている。来年も皆様のジュエリーボックスが、素敵な思い出でいっぱいになりますように。ハッピーホリデー!

  • 毛利悠子 美術家
  • 関祐介 デザイナー
  • 髙比良くるま 令和ロマン(お笑い芸人)
  • 中島敏子 編集者