普段から宝飾品をたくさんつける性質ではないけれど、最近、左手の定位置にはホワイト、イエロー、ピンク、3つのゴールド・リングがある。ブチェラッティの「ハワイ」コレクションだ。
私がヴェニスで展覧会をやった年、たまたまブチェラッティも大きな展覧会を開催していて、日本の CEO であるアツコさん(飲み友達)が、コモ湖畔にある工房の見学に誘ってくれた。エントランスから厳重かつ最新の設備が整う工房では、たくさんの職人さんが Bluetooth イヤホンで好きな音楽を聴いたりしながら、ヤスリや金槌を駆使して、それはそれは細かい金細工や石のパーツをひとつひとつ作りあげていく。席の傍らには手描きのノートが置いてあって、職人さんがそれぞれ自分だけのやり方でパーツを手がけていることがわかる。設備こそ最新だけれど、数世紀前から変化していなさそうな誇り高い職人技の工房だった。
私がつけている「ハワイ」というコレクションは、しかし、そういった昔ならではの金細工とは違った作られ方をしていた。まず、細いワイヤー状のゴールドを3、4本ほど束ねる。職人さんは、一方の端を万力に固定してから、もう片方の端をリョービの電動ドリルの先っぽに付けた。ストップウォッチを片手に万力から3メートルほど離れて立った彼は、ニヤッと笑ってから数秒間――たしか12秒くらい――電ドリをまわしてワイヤーをうねうねツイストさせた。ゴールドは完璧にコイル状に捩じあげられた。他のジュエリーに施されるザ・職人技と「セカイヲ軽クスルカンパニー」のテクノロジー12秒とのギャップに衝撃を受けつつ、普段から電ドリを駆使する私にとって、それはとても親近感が湧く制作プロセスだった。
「ハワイ」コレクションは、このシンプルなツイストリングをベースに、それをチェーンのようにいくつもつなぎ合わせることでネックレスやイヤリングになるのだけど、衝撃の電ドリ体験に惹かれた私は、シンプルな状態のリングを購入した。そこには、見た目の美しさだけではない、制作プロセスにおける DIY 精神が純粋な形で宿っている気がするのです。