
日々、繰り返し聞く音がある。
「お風呂が沸きました」
毎日実に律儀に伝えてくれると思う。この音声がなかったら風呂を沸かしたことなんて忘れて、毎日服のままソファで寝てるだろう。
「扉が開きます」
「お客様のお荷物はお預かりしていません。プリペイドロッカーをお使いいただき、ありがとうございます」
宅配BOXはこの2つのどちらかを日々聞く。プリペイドロッカーってなに?お礼を言われるほどの付き合いでもないが。
「こちらのドアが開きます」
毎日のことだからわかってるよ!と思いつつ、たまに心の中で「はーい」と返事してみる。
家のエレベーター、仕事先のエレベーター、地下鉄のエレベーターの皆さん、おつかれ。
そんなたわいない音にまみれている毎日だが、実は最近、恐ろしい音楽体験をした。
ある日タクシーに乗ったら、うっすらとユーミンの「やさしさに包まれたなら」が流れてきた。しかしそれは「小さい頃は神さまがいて、不思議に夢をかなえてくれた」までで終わってしまい、以下延々と同じフレーズがループするのだ。「小さい頃は神さまがいて…」「小さい頃は神さまがいて…」
なんだなんだ?頭がおかしくなったのかと思って、運転手さんに「今ユーミンかけてます?」と聞いたら申し訳なさそうに「最近、お客さんがシートベルトしてないとこれが自動的に流れるんです…すみません」
ショーゲキ、である!!!
(今はまだKMタクシーだけだと思うが)そんなシステムになっていたとは。
こちらこそ失礼しました!と慌ててシートベルトをした。大きな荷物を抱えていたので、シートベルトはごめんなさいしていたのだった。しかし驚いた。同じメロディのループで頭おかしくなる前に、きっと人々は運転手さんに理由を聞いてシートベルトをすると思う。「ちっ、うざいな」と小さく思う人も多いだろう。酔っ払って「いい曲だねえ」といつまでもニコニコと聞いてる幸せな酔客もいたらしい。
この曲は1974年当時の荒井由実による、世代を超えて愛される名曲で『魔女の宅急便』のテーマとしても有名だ。その名曲が都内のタクシーの中でAメロだけが延々垂れ流されている。
「目にうつるすべてのことはメッセージ」という結論には永遠に至らない。
どうなんだろユーミン。