映画『メッセージ』が好きで、そこから原作をしらべて辿りついたのがこの表題にもなっているテッド・チャンの短編集『あなたの人生の物語』。宇宙人が来訪する典型的なSFかと思いきや、実は誰にでも起こりうる人生の物語だった。主人公の言語学者ルイーズが、「武器=言語」と訳したことから軍に招集され、宇宙人との対話に駆り出される。女性ならではのしなやかなさで宇宙人・ヘプタポッドとの交流を深めながら彼らの言語を理解すると同時に、ルイーズは未来が見えるようになる。未知の言語を習得すると同時にあたらしい能力が芽生えるということと、そして起こるとわかっていてもその未来を選択するか否か。自分の感覚や能力というものがまだいくらでも開いていくことができる可能性を感じたことと、誰かをとても愛したということはそのものが無くなったとしても残り続けるということ。その2つは当時の私をものすごく励ましたのだった。これ以外におさめられている短篇もぜんぶおすすめです。そして、あの短篇をあそこまでのビジュアルで映像化したドゥニ・ディルヌーヴ監督はそれ以来常に新作が楽しみな作家のひとりです。
『あなたの人生の物語』
テッド・チャン(早川書房)