チベット

1995年、仕事仲間が死んだ。
彼女の遺言がダンボールで届いた。
このセーターを着てチベットのカイラス山へ行ってきて欲しいです、と。
無知とはこういう事なのか、わたしは実行した。彼女のセーターと言葉の書を荼毘する為に、今生のおわりのような果てしない旅だった。
カム族の若者が寺に案内してくれて、紅に燃え盛る火の中から鳥が飛び立ち、去っていくのを彼等は黙していた。
かれらのお経に吸い込まれていく音に身を任せ気がついた頃、
世界は青だった。