旅が仕事みたいなもので、1年の3分の1くらいは家を留守にしている。今年はヴェネチア・ビエンナーレの準備のために、2か月半ほど現地に滞在した。
特に観光地を見るわけでもなく、普通の生活に集中する。新しい住処では、新しいルーティンが生まれる。
朝起きて、ベランダから路地を見下ろし、肉屋のブルーのテントが開いているのを確認、8時15分から9時までのゴミ回収のおじさんの呼び声に合わせて、1階に降りてゴミを捨てる。その足で肉屋に行って、生肉でつくったマリネ(私はこれを通称ユッケと呼んでいた)、プロシュート、サルシッチャ、パンチェッタなどを買う。量り売りのワイン屋で1.5リットル分のグランデ・ペットボトルにプロセッコ・スプマンテを入れてもらって、家で冷やしておく。それから午前中の制作。午後1時に、現地労働者のための食堂でお昼休憩を挟む。インストーラーのヤコポが毎朝電話で席を確保してくれてて、現地労働者でない私もそこに混ぜてもらう。テンションの高いお姉さんが日替わりメニューを早口で伝え、2皿の料理と野菜グリルの盛り合わせ、ハウスワインとコーヒーで15ユーロととてもお得。で、戻ってまた夕方まで制作。帰ったらシャワーを浴びて、買っておいた肉とワインをパクついて最高の気分にひたる。
こんなふうに、新しい日常が旅先でできあがる。旅、というか移動することで、感覚が研ぎ澄まされる。思考や感覚がルーティン化することが怖いのかもしれない。
10/ 2024