
中学生の頃、渋谷は私にとって特別な憧れの場所で、休みの日は自宅のある鎌倉から一時間半、学校の後でも一時間以上かけて通う価値がある、満員電車で足が棒のようになっても毎日でも行きたいと思っていました。自宅から二駅の中高一貫の女子校は立地的には通いやすかったけれど、放課後渋谷で毎日遊ぶには不便で、私は何の未練もなくその学校をやめ、高校からは晴れて山手線の駅が最寄りの、渋谷から十五分も離れていないような場所の共学校へ進みました。それから渋谷はただの憧れではない、私の青春や生活と切っても切り離せない場所になります。
学生時代は横浜に住んでいたし、水商売をしていた時は毎日新宿にいました。どこかで渋谷を青春の神聖な場所としてて汚したくない気持ちがあったのかもしれません。渋谷には、当時私だけの、と私が感じていた秘密の場所がたくさんありました。喫煙できた頃の109の二階テラス、女子高生時代の秘密のアルバイト場所だった雑居ビル、一時期好きな店員のいたampm、クラブに行った後に仮眠ができるラブホテル、bunkamuraの展示や観劇の後に寄る喫茶店、高校生が出入りできた飲み屋など、どこも人はたくさんいて、誰かにとっては特別でも何でもない場所でも、私にとっては間違いなく、私のための私だけの秘密の場所でした。当時の渋谷には若い女にそう思わせてくれる街としての余白のようなものがありました。
時が経ち、かつて私にとって特別で秘密だった場所は大規模開発でなくなってしまったり、あるいは残っていても以前ほど私にとって特別なものではなくなってしまったりして、渋谷は私にとって、近所の繁華街、必要な買い物をする場所、になりつつあります。それは半分は渋谷が変わってしまったせい、半分は私が大人になりすぎたせいなのでしょう。それでも時々ネイルサロンの帰りに、今でもある、かつてよく煙草を吸いに入った喫茶店に入ると、大人になるかならないか微妙な年齢の頃の自分の不安定な気持ちを思い出して嬉しくなります。