3歳からクラシックピアノを習い始め、18歳で上京するまで趣味で弾き続けた。何度かコンペティションにも挑戦し、地方の小さな大会で賞を獲ったこともある。そのときの講評を、今でもうっすらと覚えている。「ダイナミックで個性的」みたいな内容だったと思う。要約すると、「なんか目立っていたから賞あげとくか」ということだろう。お情けでもらった小さなトロフィーを抱えながら、静かに「あ、自分はピアノで生きていくの、無理だな」と悟ったのを覚えている。
5年に一度開催される世界最高峰と称されるショパン国際ピアノ・コンクールが開催された。第19回目となる本年は、日本人ピアニストの活躍が目覚ましく、桑原志織さん、進藤実優さんの2名がファイナルに進出し、桑原さんは栄えある4位、進藤さんも入賞を飾っている。優勝の座を勝ち取ったのは、アメリカの Eric Lu (エリック・ルー)。2015年の第4位受賞から、10年越しの悲願のグランプリ獲得だ。
重厚なワルシャワ・フィルハーモニーのホールで演奏する出場者たちの様子を YouTube で眺めながら、ピアニストとしてこのステージに立つのはどんな心境なんだろうと妄想する。来る日も来る日も血の滲むような修練を重ね、人生を賭けた50分という時間。その緊張、プレッシャー、そして興奮は、想像の限りを尽くしてもなおあまりある。
もし今とは違う人生を送っていたら、ピアニストを志していただろうか。ショパン国際ピアノ・コンクールは無理でも、国内の小さなコンクールくらいなら挑戦できていただろうか。いや、世の中には「何かを始めるのに、遅すぎることはない」という金言があるじゃないか。いつか友人の前で披露することを目標に、週末はピアノの練習に励もう。