
取材を通してオーセンティックバーの楽しみ方を覚えてからというもの、何かにつけ息抜き、気分転換にバーを選ぶようになった。同じ材料を使っても生み出されるカクテルはバーテンダーによって異なるのもおもしろければ、注ぎ方一つ、冷やし方ひとつで味が変わっていくのもおもしろい。
静かな空間で日々の喧騒や仕事を忘れることが切り替えのスイッチになっている。銀座・数寄屋橋の「サンボア」もよく顔を出す店の一つである。名物の氷無しハイボールは、シンプルすぎるほどシンプルであるがゆえにバーの魅力を詰め込んだ一杯だと思う。何も指定しなければウイスキーはどこでも手に入るサントリーの角瓶で、そこにソーダを注ぐだけで完成する。
かつての私のように「なんだ自分でも作れるじゃないか」「その材料ならもっと安く飲めるだろう」と思う人もいると思うのだが、そんなみなさんにこそぜひプロの味を体感してもらえると嬉しい。ウイスキーと炭酸水を極限まで冷やすことで味わいは家庭や居酒屋のそれとは全く異なるものになる。
細かな職人技にも心が惹かれるものがある。自分の仕事もかくあるべし、と気持ちを切り替えた頃には気持ちよく酔っているのだが……。