スカッとしたい時に特に映画を観る習慣はないのでお題から逸脱して恐縮ですが、月末担当なので許してください!
というわけでスカッとしたい時のみならず、落ち込んだ気分の時でも、逆に楽しい気分の時でも、折に触れて何度も見たくなる動画がある。それは Hermeto Pascoal (エリメート・パスコアール) という天才老人の動画だ。見た目は裸のサンタクロース。去年89歳で惜しくも亡くなったブラジル人の芸術家でブラジル音楽の至高点であり「魔術師」と呼ばれた奇才であり、レッテルを拒み自由過ぎる音楽を創り、自ら奏で歌い、誰よりも自分が楽しんでいた人。
私はこっそり師匠と呼んでいる。
最初この動画を見つけた時は、本当に腰を抜かした。画面全体に白髪で白く長い髭をたくわえ、上半身裸で横たわっている巨漢の老人ひとり。アルピノなので肌は真っ白だ。異様すぎる。静寂の中、唇を震わせ謎のリズムで不快な音をたて始める。紳士淑女の皆さんは最初はキキキモイ!グググロイ!と思うだろう。しかし両手で胸を叩いたり、大きく膨らんだ腹を叩きながらリズムを刻んでいく様子を見ていると、そこに現れた“音楽”にじわじわと畏怖と感動(と笑い)が押し寄せてくる。恐ろしいことに上半身全部がパーカッションの楽器なのだ。各部位に異なる音程を正確に当て、たまに自分で頭も叩くしゲンコツで胸を叩き続けたりもする。無音で見るとまるでイカれた狂人なのだが、実に崇高な音楽を奏でているのである。まさに身一つで。
もうひとつ好きな動画は、ブラジルの山奥の森の中にある天然の温泉に、数人の弟子たちと一緒に浸かっている姿。もちろん全員パンイチ。湯気のあがる中で弟子たちは全員2本のジュースの瓶の口に唇をつけてメロディーを伴奏する。師匠は複数の瓶を操ったりフルート吹きながらたまにお湯に潜ったり、皆で即興の美しいメロディを奏でるのだ。なにせ即興なので師匠がいつ潜るかわからない。弟子たち凝視。これ、裸で温泉の意味ある?なんて思ってはいけない。お湯に潜りながら拭くフルートは鳥の鳴き声のような繊細さ。そして子供の頃によくやった水面でプルルルル…これが実に音楽。かと思うと全員で水面を高速にパシャパシャやるだけ。しかしそれだけでパーカッションのリズムになってしまう。
もうね。音の錬金術師よ。森羅万象あらゆるものが師匠にとっては楽器であり、森や湖などすべての音は音楽なのだ。自分の長い髭をマイクの前でさするだけでリズムを作り、ヤカンの口の部分だけでメロディを奏でる時もある。フォークとナイフだけでも音楽を産み落とす。常にその瞬間だけに生まれるインプロヴィゼーションの奇跡。
もちろん服も着ます。普通の楽器もこなし、ピアノ、サックス、ギターなどマルチプレイヤーで、マイルス・デイヴィスなどとも仕事をしている。常に前衛音楽家ではありながら、人々に人生の悦びと感動を与える彼の動画を見てると、日常の些細な問題なんてどうでもいいわい!好きにやるさ!という気になる。
@HermetoPascoalOficial
1.「Brincando de Corpo e Alma」(体と魂、全身全霊で遊ぶという意味)
2.「Música da Lagoa (Sinfonia do Alto Ribeira)」(湖の音楽_アルト・リベイラの交響曲)
*サンパウロ州アルト・リベイラは洞窟や滝、熱帯雨林などで知られる広大な自然保護区